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試料環境

「試料環境」というのは何ですか?

例えば皆さんが普段の生活で飲んでいる”水”。手を洗うのに使ったり、お風呂に入ったり、川に流れているのを見たり、雨として空から降ってくるのを見たりしますが、どれも液体です。形を自由に変えることができて、流れることができます。でも、いつも液体でしょうか?お湯を沸かしたり、料理をするために火にかけ、100℃以上になれば、”水蒸気”つまり”気体”となって飛んで行ってしまいます。一方、冷凍庫に水を入れると、カチカチで冷たい”氷”つまり”固体”に変化します。寒い冬になると、雨ではなく、積もる”雪”が降るのも、気温が下がり、水が氷になったためです。このように、物質つまり測定の対象となる”試料”が置かれる”環境”が変わると、その物質の形態や性質が変わる可能性があります。ここでいう”環境”とは、温度が”高い(高温:熱い)”ことや”低い(低温:冷たい)”といったこと、”蒸し蒸しする”や”カラッとしている”といった感覚と通じる”湿度”、外から強く押される”圧力”、逆に外から引っ張られる”引張応力”、強力な磁石をそばに置いたことに相当する”強磁場”、等があります。いずれにしても、日常とは異なる環境下に試料をおいてやれば、上の水の例のように、何らかの形で試料が”変身”する可能性があります。このとき、MLFの測定装置を使えば、この試料が、原子レベルのとても小さなレベルで、”どのように変身したか”を調べることができます。その意味で、MLFで様々な試料環境を実現できることは重要なことです。

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MLFの試料環境

MLF試料環境(Sample Environment: SE)チームは、MLFの試料環境整備、運用、高度化に関わる活動を行い、特に、ビームラインに共通する試料環境機器の整備、運用を中心に行っています。ユーザーの要望に応え、新しい実験結果がMLFから発信されるよう試料環境の整備、運用、高度化に貢献していきたいと思います。

MLF SEチームでは、以下の試料環境の整備、開発を進めています。

低温

高温

強磁場

応力 高圧

   引張

   疲労

光照射

ソフトマター(上記、外場の種類によるカテゴリーに入りませんが、柔らかい物質を対象とした特有の試料環境を示しています)

湿度調節

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試料環境機器の標準化

例えば、皆さんが日常お使いのUSBメモリースティック。差し込み部分の形状も大きさも同じなので、どのメーカーのメモリスティックでも、どのメーカーのPCにも使うことができます。同様に、施設内で試料環境機器に関わる規格を標準化しておけば、どのビームラインでも使うことができるようになり、利用や開発の場面で効率化が図られます。以下の”試料環境プロトコル”に、MLFの試料環境の標準化に関する取り決め事項をまとめましたので、参考にして下さい。

試料環境プロトコル

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貸出物品

MLF SEチームでは、J-PARCで働く職員を対象として、試料環境周辺機器、物品の貸し出しを行っています。

貸し出し機器の詳細、貸し出し手続き等については、MLF実験装置内部公開用Web(スタッフ用)トップページ 試料環境 をご参照ください。

一般ユーザーの方で、貸し出しを希望される方は、ビームライン担当者等のJ-PARC職員にご相談ください。

主な貸し出し物品

● 真空ポンプ

● 真空ゲージ

● データーロガー

● 温度コントローラ

● ガウスメーター

● ヘリウムリークディテクタ

● 冷凍機用ヘリウムコンプレッサー

● 液体窒素容器

● 温度センサー&ヒータ(Siダイオード、セルノックス、白金、カートリッジヒータ)

● 真空吸込フィルタ(拡散防止用)

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試料環境機器導入にあたってのお役立ち情報

機器状態集中監視システムのための機器側の設定

まだ運用はされていませんが、MLFでは、高温炉等、これまで常時監視が求められていた試料環境機器の無人運転の実現を目指して、”機器状態集中監視システム”が利用できるよう、準備を進めています。このシステムを利用するためには、試料環境機器側で、異常時に信号が発せられるように設定をしておく必要があります。どのような信号が出せるようにしておく必要があるのかを以下に記しています。

機器状態集中監視システムのための機器設定

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警告灯

MLFで推奨されている表示方法については、MLF機器安全ウェブページ「高温炉」「表示灯の設置」 をご参照ください。

運転中:赤点灯

異常発生:赤点滅 + 警告音

となっています。

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試料環境研究者、技術者の集い

国内

これまで、国内では、試料環境研究者、技術者が集う機会がありませんでした。しかし、2020年1月8-9日に第23回CROSSroads研究会「量子ビーム実験施設における試料環境」が開催され、初めて国内の試料環境研究者、技術者が集まりました。研究会には75名の参加者があり、活発な議論が行われました [1]。

国際

J-PARCは、試料環境の国際学会である International Society for Sample Environment (ISSE)の参加施設団体として参与しています。

ISSEで行われる大きな行事には、国際研究会と国際スクールがあり、それぞれ2年おきに交互に行われます。

  • 国際研究会

第11回試料環境国際研究会(那須)2022年8月28日-9月1日 11th International Workshop on Sample Environment at Scattering Facilities[2,3]

  • 国際スクール

3rd ISSE Training School(ドイツ・ベルリン)2019年10月27日-11月1日 :MLF SEチームからは、石角元志氏、有馬寛氏が参加しました [4]。

4th ISSE Training School(茨城県東海村)2023年10月22-26日
この秋行われます!ぜひご参加ください!

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活動報告

[1] 坂口佳史、有馬寛、石角元志、舟越賢一、加倉井和久、奥隆之、渡辺真朗、河村聖子、金子耕士、川名大地、「第23回CROSSroads Workshop「量子ビーム実験施設における試料環境」」波紋 Vol. 30, No. 2 (May 2020) p. 112.

[2] 河村聖子 / S. Ohira-Kawamura,「11th International Workshop on Sample Environment at Scattering Facilities」 波紋 33 (2023) p. 33.

[3] S. Ohira-Kawamura, "11th International Workshop on Sample Environment", Neutron News, to be published. online

[4] 有馬寛、石角元志、「3rd Inernational Society for Sample Environment (ISSE) Training School」波紋 Vol. 30, No.1 (February 2020) p. 53.

[5] S. Ohira-Kawamura, T. Hattori, S. Harjo, K. Ikeda, N. Miyata, T. Miyazaki, H. Aoki, M. Watanabe, Y. Sakaguchi, T. Oku, "Highlight of recent sample environment at J-PARC MLF", Neutron News, Vol. 30, No. 1 (2019) p. 11.

[6] T. Aso, Y. Yamauchi, Y. Sakaguchi, K. Munakata, M. Ishikado, S. Ohira-Kawamura, T. Yokoo, M. Watanabe, S. Takata, T. Hattori, W. Kambara, T. Oku, Y. Kawakita and K. Aizawa, Proceedings of the 21st Meeting of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources (ICANS XXI), JAEA-Conf2015-002, KEK Proceedings 2015-7, p.456.

その他、各試料環境分野における活動報告、技術論文については、各専門グループのページをご参照ください。

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