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機器安全

MLFでは複数のビームラインにおいて同時に多くの利用者による実験が実施されています。それらの実験が滞りなく遂行できるためには、施設が安全に保たれていることに加え、利用者の持込機器も安全(健全)であることが重要になります。そのため、来所前に実験機器持ち込み・使用届により申請された実験機器(試料容器を含む)に関しては、原則として、使用前に係員による機器の健全性および安全性確認を受けていただくことにしています。利用者の皆様においても、以下に記載している安全基準や規定を参考に、持ち込む機器に問題が無いか、必要な手続きに抜けがないか(レーザー審査、実験準備室利用等)など確認の上、実験機器を持ち込み使用するようにお願いします。

新たに機器を製作し、これを持ち込み、使用することを予定している場合、事前に装置担当者にその旨相談してください。 内容によりMLF機器安全チームからアドバイスさせていただきます。

記載事項

安全基準(共通事項)

電源関係やインターロック等、共通する安全基準の考え方について記載しています。

機器毎の安全基準

利用者の持込機器を対象に、代表的な機器に関する安全基準を記載しています。

記載機器

高温炉低温槽・冷凍機強磁場発生装置高電圧印加応力発生装置高出力光源試料容器真空ポンプ真空容器・ガス配管

機器安全ー内部基準

高温炉の運用に関する内部基準高温炉、電気利用に関する電気保安規定電気保安について記載しています。

安全基準(共通事項)

機器安全に対する基本的な考え方を下記に記述しますので、参考にしてください。

0.事前確認

・未使用、或いは、半年以上使用されていない電気機器は、所属機関において、最低でも電源を入れ異常が見られないことを確認してから持ち込むようにして下さい。 ・高温や高圧などの特殊な実験環境については、可能であれば、MLFで予定している実験条件相当で健全性を確認してから持ち込むようにして下さい。MLFに持ち込まないと健全性が確認できない機器(施設機器との組合せなど)については、確認当日に健全性確認のための試運転をしていただくことがあります。


* J-PARCでは、管理区域内に段ボール箱を持ち込まないようにとされています。 持ち込み機器の梱包にあたっては、段ボール箱ではなく、プラスチック製コンテナ等を用いることをお願いしたいと思います。

1.電源関係

1.1 容量

定格電流が30Aを超える電気工作物を持ち込む場合、別途、申請手続きが必要となることがあります。採択通知後、装置責任者を通して、電気担当者まで早めに問い合わせてください。
【(原科研)電気工作物に関する作業等の保安基準 別表7 項目4】

1.2 動力ケーブル

使用する動力ケーブルは、機器の定格容量にあったものを用いるようにしてください。そのため、実験機器持ち込み・使用届ご提出の際に、機器の定格容量を記載してください。
機器間等を接続する動力用ケーブルには、よくVCT(ビニールキャブタイヤケーブル)が用いられます。 (例:制御盤-ポンプ、電源-電磁石)
しかし、MLFでは、電源プラグ付きでない動力ケーブルまたは2m以上の動力ケーブルについては、 人の往来や機器移動等によるケーブルへのダメージを考え、 2PNCT(2種ゴムキャブタイヤケーブル)の使用をお願いしています。
2m未満の電源プラグ付き動力ケーブルはVCTケーブルで構いません。 VCT, 2PNCT

ケーブル(動力、信号の両方)の機器への接続箇所は丸型圧着端子を使用し、金属部分がむきだしにならないよう 絶縁キャップを付けてください。 丸形圧延端子と絶縁キャップ

1.3 コードリール、延長ケーブル

コードリール、延長コードの使用は一時的な作業時に限ります。
コードリール、延長コードは2極アース付き端子で、15A以下の遮断器が備わっているものを使用してください。遮断器が備わっていないものを使用する場合は別途15A以下の遮断器付きセーフティータップ等を準備して使用してください。 コードリールを使用する場合、電線は全て引き出して使用してください。ドラムに巻いたまま使用すると発熱、発火する場合があります。また、ケーブル外被に傷等がある状態では使用しないでください。傷部分から発熱、発火したり、ショートする可能性があります。
外皮に傷等が見つかった場合はそのまま使用せず、装置担当者に連絡してください。また、補修は装置担当者の指示に従ってください。
コードリール、延長ケーブル、セーフティータップ

1.4 経年劣化

既製品であっても、ケーブルやコネクタに経年劣化や破損等の異常 が発生していることがしばしばあります。 このような場合、交換等の適切な処置をお願いいたします。
また、汎用の電気製品は製造後あるいは使用開始後20年以上経過したものは更新してください。【JAEA 安全作業ハンドブック】
自作電気機器は内部の確認も行います。可能であれば、事前の資料送付をお願いします。

1.5 プラグ

100V用プラグは原則として、2極アース付きプラグを使用してください。 アース線がある場合はアース接続端子に接続してください。 接続すると実験に支障がある場合は、アース線をケーブルに沿わせ、ビニールテープなどで絶縁処理(固定)してください。 2極アース付プラグ
アース端子接続

200V用プラグについては、100Vとの混同を避けるため、法令で定められた形状があります (JIS C8303およびNEMA規格準拠) 。 加えて、直ぐに判断がつくような表示を行うと好ましいです。 NEME規格コンセント

1.6 アース

電気保安上、適切なアースが取られているかを確認します。ノイズ対策上アースを浮かせている等例外の場合においても、安全性の確認を行います。

1.7 ヒューズ

自作製品の場合、万が一短絡が生じ、大電流が流れるような場合に備え、適切な容量のヒューズを必ず入れてください。

2.インターロック

2.1 インターロックの考え方

インターロックとは何らかの理由で機器制御が効かなくなり、機器が暴走状態になった場合にこれを検知し、自動的に機器を止めるシステムの事を言います。
下記にインターロックシステムの例を紹介します。

2.1.1 過昇温防止

制御用温度計とは別にモニター用温度計を用意し、モニター温度が規定値を超えた場合に加熱を停止させます。

2.1.2 水冷

水量または水圧が規程範囲外になった場合装置を停止させます。

2.1.3 真空(圧力)

真空または特定範囲の圧力が必要な場合、圧力(真空度)が規程範囲外になった場合装置を停止させます。

2.1.4 電磁石、高電圧

電磁石やケーブルの仕様を上回る電流が流れた場合に電力を遮断させます。

インターロックが作動し機器が停止した後、インターロック作動条件から外れても自動復帰しないようにしてください。 インターロック作動原因究明後手動で解除するようにしてください。これらは、機器が一度停止した場合、他の動作条件が整っていることを確認する前に機器が動作することを防ぐためです。

特に人体に危害が発生する可能性がある場合はインターロックの設置を強く要望します。また、インターロックを備えない場合装置稼働時の常時監視をお願いすることがあります。
万一、人体に被害が及んだり、火災等の事故が発生した場合、MLF全体の稼働がストップする事態となってしまいますので十二分に注意してください。

2.2 非常停止

機器に何らかの異常が発生した場合、直ちに機器動作を停止できるよう非常停止装置(ボタン)を設置してください。
非常停止装置(ボタン)の設置場所は異常感知時に直ぐに停止動作が行える場所としてください。

2.3 表示灯、動作灯

高温、強磁場、高電圧等の発生場所には警告灯の設置を推奨します。また、「高温注意」、「強磁場発生中」、「高電圧注意」等の注意標識の設置を推奨します。
赤色灯

2.4 事前動作確認

すべての機器は持込前に事前に動作確認を行ってください。
また、高温、高圧、真空、強磁場等を使ったビーム実験を行う際には、本実験を行う前にビームライン上ではない場所で、事前に測定時条件に対し余裕を持った条件まで昇温や昇圧、真空引き、磁場印可を行い、安全に動作することを確認してください。
事前確認を行う場所はMLF施設外が望ましいですが、実験準備の関係等でMLF施設内が良い場合、試料環境エリアや各ビームラインの準備エリア等で行うことができます。

3. 機器の設置

すべての機器は、安全に設置される必要があります。以下の事項に注意して機器の設置を行ってください。
・転倒しないよう安定な状態で設置するか、あるいは床や台などに固定してください。
・付属品が落下しないよう適切に取り付けてください。また、機器の上に不要な物を置かないでください。
・重量物は運搬時を考慮し、吊り金具を取り付てください。また、機器の重量も表示してください。
吊り金具&重量表示
・ケーブル類が足に絡まないように設置してください。
・ケーブル類は人が通行しない場所に配置することを心掛けて下さい。通行する床面への配置が避けられない場合は、ひっかかりによる転倒防止やケーブル保護のため、モール類の使用を推奨します。
カバー
・ケーブル類が機器の角部等に当たる場合は角部等にクッションを付ける等断線しないよう保護してください。
クッション
・配線類の自重による垂れさがりがある場合や配線を誤って引っ張ってしまった場合、接続箇所に大きなテンションが掛からない様、適当な位置で捕縛して保護するようにしてください。 配線固定

・電源コードやケーブル類は、小さい半径で曲げると内部の劣化が進みやすくなります。 そのため、例えば、L型プラグの電源コードを使用する場合、コードの曲がりが無いようコードが下側になるよう配線してください。どうしても上側になる場合は、コードやプラグにテンションが掛からない様、適当な位置で固定して下さい。
L型プラグ
・機器の電源はブレーカやスイッチ等でON/OFFするようにし、電源プラグの抜き差しによるON/OFF は行わないようにしてください。 なお、ACアダプターの類はその限りではありません。

機器毎の安全基準

1.高温炉

100℃以上の高温を発生する装置は高温炉として、ビーム実験に先立ち、事前試験を含む安全審査を行い、安全性が確認されたのち、ご使用いただくことになっています。規定(高温炉) 安全審査に際して、以下のポイントを参考にして下さい。

1.1 電気保安上の安全性

ケーブル、コネクタが機器の仕様に適合するものなのか確認します。 配線上の不具合がないか(接続コネクタがむき出しになっていないか等)、確認します。 アースがとられているか、確認します。

1.2 インターロック

安全基準(共通事項) 2.インターロックで説明したインターロックシステムを有していることが求められます。

1.2.1 過昇温防止

次の2つの方法があります。

  1. 制御用の温度計を用いる
    制御用の温度計で、ある設定した温度を超えると、コントローラーがこれを感知し、自動的に出力を止めます。多くの市販の温度コントローラーが有している機能です。
  2. モニター用の温度計(制御用とは異なる)を用いる
    制御用とは異なる、モニター用の温度計を用意し、これがある設定した温度以上になると、出力が停止されます。市販のコントローラーがこの機能を有していることは少ないです。しかし、この機能が有効に働く場合として、例えば、本来試料位置に置かれるべき温度計が何らかの原因で外れて別の場所にある場合や、 設置する温度計の種類を間違い、正常な温度計測がされなかった場合、さらには、ヒーター制御はうまくいっているが、本来上がってはいけない場所で温度が上がってしまった場合等があり、機器の安全性を確保する上で重要なシステムです。

MLFでは、原則として、上記2つの過昇温防止インターロックシステムを備えた高温炉の持ち込み、使用をお願いしています。

1.2.2 水冷

水冷が必要な場合、安全基準(共通事項) 2.1.2 水冷で説明したインターロックシステムを組み入れることは有効です。

1.2.3 真空(圧力)

真空またはある特定の圧力範囲での使用が必要な場合、安全基準(共通事項) 2.1.3 真空(圧力)で説明したインターロックシステムを組み入れることは有効です。

1.2.4 インターロックの解除

インターロックが動作し、自動停止がなされたら、動作条件から外れても(例えば過昇温で自動停止後、温度が下がった場合)、自動復帰して動作が再開されることのないようにされるべきです。インターロックの解除は、原因が究明されたのち、オペレーターによって手動で行われるようにしておく必要があります。

1.3 非常停止

安全基準(共通事項) 2.2 非常停止で説明した非常停止装置(ボタン)を設置することが望まれます。また、その設置場所は、異常感知後、直ぐに停止動作が行えるところである必要があります。

1.4 表示灯の設置

安全基準(共通事項) 2.3 表示灯、動作灯で説明した表示灯の設置を推奨いたします。表示の色と意味の対応について、MLFでは以下の方式を推奨しています。 ○高温炉の動作:赤点灯 ○異常の発生:赤点滅+警告音 尚、表示灯については、今後、MLFで準備することを検討しています。

1.5 動作確認試験

安全基準(共通事項) 2.4 事前動作確認で説明した動作確認試験を行ってください。高温炉の場合は測定条件+10%まで確認してください。

1.6 火傷の防止

高温測定を終え、試料を交換する時等は、熱い状態になった試料に触れることで火傷をしないよう注意してください。試料近くに設置した温度計をモニターし、試料交換をするのはこの温度が何℃になったときに行うことにする、といった実験手順書を作成しておくとよいでしょう。

1.7 監視体制

現状、MLFでは、ユーザー持ち込み高温炉については、昇温動作中は常時監視していただくことをお願いしています。測定が長時間に及ぶことが予想される場合、監視要員の確保についても、予めご検討ください。

1.8 特殊な高温炉について

上記では、高温炉一般にあてはまる説明でしたが、以下では、高温の発生、試料周辺の環境という点で特殊ものについて説明します。

1.8.1 ランプ加熱炉

コイル式の電気炉では、炉心管が試料回りにあるため、中性子ビームが当たり、バックグラウンド発生の要因になります。これに対し、ランプ光を照射しての高温発生では、試料回りに余計なものを置かなくてもよい利点があります。さらに、この方式では、高温状態が比較的短時間で達成できます。安全上の問題点としては、ランプが発生する光の輻射により温められるため、設計上のミスや機器の破損等が影響して、集光もしくは光が照射される場所が予定とは異なることになった場合、その場所が加熱されることになり、思わぬ問題を生じる可能性があるということです。このため、事前運転試験において、この種の問題が生じないか、種々の場所での温度モニターを行います。

1.8.2 レーザー加熱炉

特性は上のランプ加熱炉と同じですが、レーザー加熱炉の場合、指向性の良いレーザーを用いているという点が異なります。また、J-PARCセンターレーザー安全専門部会による安全審査対象機器となり、MLF機器安全チームによる審査とは別の安全審査が必要となります。6.高出力光源を参照下さい。

1.8.3 雰囲気炉

試料回りをある特定のガス雰囲気にして高温実験する場合があります。この場合、機器安全チームによる高温炉の安全審査以外に、ガス安全チームによる安全審査が必要となりますので、この点を装置担当者にご相談ください。特に、爆発性のあるガスについては、事前の相談が必要となります。

1.9 その他の注意点

MLFではスライダック(摺動型単巻変圧器(山菱電機ボルトスライダー等))の使用が禁止されています。

2.低温槽、冷凍機

2.1 トップローディングタイプの低温槽、冷凍機を用いる場合の注意

[トップローディングタイプとは?] 低温実験において、試料交換がやりやすいように、冷凍機の測定部まわりを冷やしたまま、試料を外部に取り出しできるようにする場合があります。このとき、スティックと呼ばれる棒の先端に試料を取り付け、これを使って試料を外部(上部)から冷凍機内に入れる仕組みにしています。こうしたタイプの冷凍機を“トップローディングタイプ”と呼んでいます。  スティック取り付け時に、密閉性に甘さがあると、空気や水分が外部から冷凍機内に取り込まれ、これらが液化、固化します。スティックには、熱を遮断するために複数のバッフルが取り付けられることがよくありますが、バッフルまわりで水分が付き、これが固まる(アイスブロック)と、中の液化ガスは逃げ場を失い、閉じ込められます。実験終了後、スティックを取り出す際、液化ガスが昇温によってガス化し、一気に膨張すると、スティックがピストルのように飛び出す、という事態が生じます。

2.2 持ち込みスティック

自作のスティックを用いて実験する場合も、持ち込み機器扱いとなります。

製作にあたっては以下の点にご注意いただき、事前に装置グループに連絡を取ることを推奨いたします。また、持ち込み、使用においては、利用者支援システムから「実験機器持ち込み・使用届」のご提出をお願いいたします。

ビームライングループ所有のスティックもありますので、ご利用予定のビームラインのページをご参照ください。
https://mlfinfo.jp/ja/beamlines.html

スティック発射のシナリオ

2.3 寒剤使用の有無で分けた場合の注意点
2.3.1 寒剤(液体ヘリウム、液体窒素)を用いるタイプ
(1)液化窒素 / 液化ヘリウムの利用に関わる安全教育(低温セクション)の受講について

J-PARCで寒剤を取り扱う場合、事前に低温セクションの安全教育を受ける必要があります(作業者全員)。以下のサイトに行き、e-learningを受講して下さい。(ただし、J-LANが使える環境下でしか接続できないため、受講はJ-PARCへの来所後ということになります。)
http://jnu-cryo-srv2.j-parc.jp/~cryo-section/e-learning/
推奨ブラウザ:Google Chrome
動作確認環境:Google Chrome 32.0.1700.102 およびそれ以降のバージョン
Internet Explorer 9.0.8112.16421
Safari 5.1.10
動作しない環境:
Internet Explorer 8 およびそれ以降のバージョン(「KEK 超伝導低温工学センター ユーザー教育ページ」による)

(2)注意点

-閉空間で作業しない -気化ガスが閉じ込められる可能性がある場合:酸素濃度計と警報装置の設置 ・凍傷防止 -皮手袋の着用 ・酸素欠乏(窒息)防止 ・高所作業が伴う場合 -落下防止の措置が取られているか

2.3.2 寒剤を用いないタイプ

冷却のために用いられるコンプレッサーの動作に関わる電源接続等、主に電気配線関係の安全性について確認いたします。 詳しくは、安全基準(共通事項) 1. 電源関係のページを参照してください。

3.強磁場発生装置

3.1 強磁場発生に伴う危険

強磁場中に磁化する物体(例えばドライバーやレンチ)を近付けると、 急激に引き込まれる可能性があります。 これにより、挟み込みが起き人的損傷を受ける可能性がある他、 機器に不要な刺激を与え、後述するクエンチが生じる可能性があります。

原理的にこのようなことができないことになっていることが望ましいですが、それが難しい場合は、実験者がそのような行為をしないようにされているか、実験手順書の確認をします。

励磁中、実験者以外の立入が制限されているかどうかを見ます。 立入制限の目安は5ガウスとしています。機器周辺の漏れ磁場の大きさについても、予め、情報を得ておいてください。

励磁中は、励磁中であることが実験者以外のまわりの人にわかるよう、掲示する、もしくは、パトライトの点灯で識別できるようにして下さい。

尚、パトライトの設置に関しては、現在、施設側で準備を進めています。 施設側で推奨している標示方法は、運転時:赤点灯、異常時(クエンチ発生):赤点滅+警告音 です。

3.2 寒剤(液体ヘリウム、液体窒素)の使用に伴う危険(寒剤を用いる超伝導マグネットの場合)
3.2.1 寒剤の扱いに関係する注意事項については低温槽、冷凍機のページを参照して下さい。
3.2.2 クエンチ発生時の注意

超伝導マグネットでは、超伝導転移温度以下にコイルを冷却し、電気抵抗ゼロにすることで、コイル中に大電流を流し、強磁場を発生させています。しかし、何らかの理由で超伝導状態が壊れ、電流の流れが急激に抑えられることがあり、この現象はクエンチと呼ばれています。クエンチが起こると大量の熱が発生しますが、液体ヘリウムを用いてコイルの冷却が行われている場合、液体ヘリウムが一気に蒸発します。 このとき、閉空間に人がいると、窒息の危険があります。

そのため、クエンチが生じた場合に、実験実施者に窒息の危険がないか、マグネットまわりの空間状態について確認してください。危険がある場合は、酸素濃度計を設置(もしくは携帯)し、実験実施時の作業要領において危険の生じない対策を講じて下さい。

上記、クエンチが起こっても、窒息の可能性のある場所に人がいなければ危険ではありません。

したがって、クエンチに関わる安全性のために、常時監視者を置く必要は特にないといえます。

しかしながら、クエンチが起こると白煙が生じるため、実験ホール内の他の実験者が火災と間違い、混乱する恐れがあるため、現在、MLFでは、励磁中は監視をつけていただくことをお願いしています。ただし、クエンチ時に、クエンチであることがパトライトにより表示され、その後の通報手順がまとめられた場合においては、監視者をつけずに運転していただいています。詳細については、安全審査時にご相談ください。

クエンチの様子

3.3 電気機器の安全対策

電磁石用電源では、電源入力および電源出力-電磁石間のケーブルの規格・仕様や配線状態を確認いたします。また、何らかの間違いで電磁石やケーブルの仕様を上回る電流が流れるようなことがないよう、電力を遮断させるインターロック機能を有しているのかを確認いたします。

寒剤を使用しない超伝導マグネットの場合、コイル冷却のためにコンプレッサーが用いられますが、この場合は、コンプレッサーの電力配線等の安全性について確認いたします。 その他、電気機器の安全対策の詳細については、安全基準(共通事項) 1. 電源関係のページを参照してください。

4.高電圧印加装置

4.1 コネクタ

BNCコネクタの定格は500Vまでです。 これ以上になる場合はSHVコネクタを使用して下さい。 ただし、利用可能な最大電圧については、個々の製品の仕様を確認して下さい。

コネクタ

4.2 ケーブル

ケーブルの仕様は、定格電圧または最大使用電圧を見て選定してください。この際、実験時の最大使用電圧ではなく、機器の有する(その装置を用いて発生し得る)最大電圧となる点に注意してください。 ケーブルの接続部分等で、ケーブルの被覆がはげ、むき出しになり、人が容易に触れるような状態にしないで下さい。

4.3電源

実験条件に見合う仕様の電源を使用してください。

4.4 システム

万が一、短絡が起こり、大電流が流れることによる火気発生、 機器損傷を防止するための保護回路の有無等も確認のポイントとなります。

4.5 機器メンテナンス

高電圧実験では、埃は大敵です。 高電圧のかかる部位には特に注意して確認下さい。

4.6 注意喚起標示

高電圧が発生する装置には、注意喚起のため、「High Voltage!」 の様な標示をお願いいたします。

4.7 実験終了後の処置

試料への高電場印加実験では、測定終了後、試料帯電の可能性等も考慮し、 適切な放電処理を行う等して、作業手順への配慮もお願いいたします。

5.応力発生装置

試験体を押して高圧力を発生させる場合、それとは逆に引っ張る装置を用いる場合の注意点を以下に記します。

5.1破壊等に起因する試料、試料容器、アンビル等の飛び出し

高圧力、引っ張り試験において考えられる大きな危険は、加圧もしくは引っ張りの過程において、試料、試料容器、アンビル等が破損したり、加圧もしくは引っ張りのやり方に間違いを起こすことにより、内部の物体が爆発的なエネルギーをもって外に飛び出す可能性があります。

試料容器については、その耐圧性について確認いたします。 耐圧試験を行っていただき、予定する実験条件下で十分に耐え得ることをご確認ください。また、その試験の結果を示す資料をご用意ください。

設計の段階において、耐圧計算を行った場合は、その資料をご用意ください。

大きな応力印加によって内部物体の飛び出しが起こる危険がある場合、十分な防護壁が設置されているかを確認いたします。 操作過程において、人がこうした危険に巻き込まれる可能性がないかを確認いたします。

5.2 放射化した試料、その他内容物飛び出しの防止

試料容器のページ、“放射化した試料、試料容器の飛散”欄を参照して下さい。

5.3 高圧力の発生にガスを用いる場合

ガス安全のページを参照して下さい。

6.高出力光源

はじめに、ご使用のレーザーがどのクラスになるのかをご確認ください。

6.1 クラス3B、4の場合

J-PARCレーザー安全専門部会による安全審査を受ける必要があります。 安全審査には時間を要します。可能であれば課題申請前に、それが難しい場合は、採択後、直ぐに、 ユーザーズオフィスを通じ、装置責任者にお知らせ下さい。

注意: 実験が実施できるかどうかにかかわるため、できるだけ早い時期にご連絡いただきますようお願いいたします。

6.2 クラス3R、3B、4の場合

「レーザー設置届」を提出する必要があります。 課題採択後、レーザーの持ち込みが決定した時点で、“実験機器持ち込み・使用届”をご提出ください。

利用支援システム:https://jrs.j-parc.jp/usjparc/ui/

6.3 クラス1, 1M, 2, 2Mの場合

上記のJ-PARCレーザー安全専門部会による安全審査、 「レーザー設置届」提出の必要はありません。他の持込機器と同様、“実験機器持ち込み・使用届”をご提出ください。

利用支援システム:https://jrs.j-parc.jp/usjparc/ui/

6.4 レーザー以外の高出力光源(キセノンランプ光源、水銀ランプ光源等)
  • 目に障害を受けるようなことにならないか、使用方法について確認いたします。
  • 紫外光によるオゾン発生の可能性がある場合には、換気状態について確認いたします。
  • 光照射による発熱によって発火の可能性がある場合、これを防止する措置が取られているかを確認いたします。
  • 加熱のために用いられる場合は、高温炉としての審査基準を適応します。
  • 電気機器として、ケーブルに損傷がないか、アースはとられているか、といったことを確認いたします。

7.試料容器

粉末、液体、ガスはそれ自身としては形状を保てないことから、これらをある一定量の塊となった試料として測定する場合、容器が必要となります。

また、高圧力の印加等では、試料を容器内に閉じ込め、これに圧力を加えるといったことが行われます。 各装置にはそれぞれ標準の試料容器を備えていることが多いですが、特殊な試料環境下での測定を行うため、ユーザーが独自に用意したものを持ち込み、使用する場合もあります。このとき、以下のような視点で、試料容器の健全性について確認いたします。

7.1 化学的安全性

強酸や強アルカリ性の液体を入れる容器である場合、これが漏れ出ることにより、周辺機器を冒したり、作業者に被害を及ぼす可能性が生じます。こうした液の容器とするには、容器自体が液により冒されない材質であり、試料を漏らさない構造を有していることが必要です。また、毒性であったり、可燃性(発火性)のある試料を入れる容器である場合も、容器自体が試料により冒されず、試料を漏らさない構造を有していることが必要です。

温度変化のように実験を行う条件を変えると、試料の化学的性質が変わることがあります。そのため、実験を行うのと同じ条件下で容器が試料を健全に保たれるのかどうかも重要です。そこで、可能であれば、測定条件下での試料及び試料容器の健全性を事前にご確認いただき、試料および薬品等持ち込み申請書(試料について)、実験機器持ち込み・使用届(試料容器について)を行う際、実験条件と、その条件下での試料および試料容器の健全性を確認した旨を、備考欄に記していただけると助かります。記入いただいた場合は、記載事項を安全審査において考慮いたします。

7.2 試料容器の破損

容器の内と外で圧力差があり、容器がこれに耐えられない場合、破損する可能性があります。特にガスが容器内に閉じ込められ、温度変化させる場合、容器の耐圧性が十分でないと、容器が破損し、大きなエネルギーをもって飛び散る恐れがあります。また、高圧実験等、意図して高圧を発生させる場合も同様で、容器に耐圧性がないと、容器が破損し、容器、内包物が大きなエネルギーをもって飛び散る可能性があります。安全審査では、圧力差が生じる可能性や容器の耐圧性について確認します。 

装置によっては、圧力実験というわけではなく、単に温度変化する実験を行う場合に、試料容器にガスを入れて測定するところもあります。この場合、装置側で健全性を確認した試料容器がありますので、このような標準試料容器を用いることを推奨いたします。

7.3 放射化した試料、試料容器の飛散

中性子ビーム実験の場合、試料及び試料容器が放射化します。 試料及び試料容器が放射化した状態で、試料容器の破損が生じると、放射性物質が容器外に漏洩することになります。漏洩事象の程度(微量、大量、爆発的)によっては、実験機器、実験室内、実験ホールへの汚染の拡大、当該ユーザーや周辺ユーザーへの被ばくの拡大が懸念されます。(最悪の場合は、施設の運転を停止することになります。) また、汚染が確認された場合には、除染を行うことになり、除染が完了するまでは、実験が再開できません。

そうならないためにも、また、試料容器の耐圧性については、十分に担保してください。

このようなことを避けるため、万が一、容器外に出たとしても拡散の程度を最小限にするため、さらに外側の容器または保護カバーを取り付けることを推奨しています。試料及び試料容器の放射化に関する詳しいことは、装置担当者を通じて、放射線安全チームにご相談ください。

放射化試料(粉末、液体、気体など)の飛散(汚染の発生)を防ぐという目的で、容器内に入れた試料の 開封作業についても確認いたします。容器内に入った放射化試料(粉末、液体、気体など)の開封は、 MLF第3実験準備室で行っていただいています。詳細は、装置担当者にご相談ください。

8.真空ポンプ

MLFでは、油回転ポンプの使用は禁じられています。 スクロールポンプ、ルーツポンプ、ターボ分子ポンプの貸出も行っていますので、 必要な場合はご相談下さい。

9.真空容器・ガス配管

9.1真空容器

MLFで真空容器を使用する場合、窓など大気との境界が肉薄になっている箇所の材質、厚さに対して審査を主に行います。審査基準は真空容器をビームラインの真空と直結するか否かで条件が変わります。

  • 真空容器がビームラインとは独立している(ビームライン真空と直結しない)場合
    実際の使用条件に即した状態で真空引きを行い、30分以上にわたり窓の破断等の異常がないことを確認してください。
  • 真空容器をビームラインに直結する場合
    構造計算により大気圧に対する窓等の強度が十分にあることを示していただくか、または使用圧の1.25倍以上で耐圧試験を実施したことを示していただきます。なお、耐圧試験の実施は原則としてMLFへ持ち込む前にお願いしていますが、難しい場合には装置責任者にご相談ください。また、耐圧試験は使用状態とは逆圧となる真空容器側を正圧とした条件での実施も可とし、構造計算が困難な部品のみを別個試験することも可とします。
9.2 ガス配管・容器

ガス配管・容器など、ガスを封入する装置の安全審査は真空容器の場合同様に、窓など構造的に脆弱な箇所に対して主に行います。審査基準は使用するガスの圧力により異なります。

  • 大気圧以下の場合
    実際の使用条件に即した状態で保持し、30分以上にわたり窓の破断等がないこと、ガス圧に変化ないことを確認してください。
  • 大気圧以上の場合
    構造計算により大気圧に対する窓等の強度が十分にあることを示していただくか、または使用圧の1.25倍以上で耐圧試験を実施したことを示していただきます。なお、耐圧試験の実施は原則としてMLFへ持ち込む前にお願いしていますが、難しい場合には装置責任者にご相談ください。また、構造計算が困難な部品のみを別個試験することは可とします

なお、使用するガス自体に関しては放射線安全、化学安全のページを参照してください。また、ガスボンベ等の持ち込みは高圧ガス安全担当者にご相談ください。

機器安全 - 規定

1. 高温炉

1.1 高温炉 とは

測定試料を100℃以上の温度まで加熱する装置を高温炉と呼ぶこととします。

1.2 事前試験

高温炉を用いて、MLF施設内でビーム実験をする場合は、本実験を行う前に、 ビームライン上ではない場所で、測定時と同じ温度条件+10%まで昇温し、 安全に動作することを確認しなければなりません。事前試験を行う場所としては、MLF施設外で行われることが望ましいですが、実験準備の関係等でMLF施設内がよい場合、試料環境エリアや各ビームラインの準備エリア等で行うことができます。事前試験時には、機器所有者(多くの場合実験責任者)、MLF機器安全チーム担当者、装置責任者の 三者が立ち会い、機器の安全性を確かめるものとします。

1.3 試料の健全性の確認

高温実験を行う場合、高温炉の機器そのものの安全性不備に由来するリスク発生以外に、 試料からガスが発生し容器内の圧力増加をもたらすこと等、高温環境下での試料状態の変化による 新たなリスク発生を十分考慮する必要があります。 そのため、高温実験を行うに際しては、測定温度条件までの試料の健全性を実験責任者が確認し、 化学安全チームに報告してください。

1.4 監視体制

原則として、高温炉使用時は、常時、監視者を付けることとします。 しかし、機器によっては、必ずしも、常時監視者を置く必要がない場合もあり得ます。 この判断については、機器のリスク評価、安全対策状況、MLF内での運転実績等を踏まえ、 機器毎に、総合的に評価した上で行うものとします。

2. 電気保安

2.1 MLFで実験を行う際に遵守すべき電気保安上の規定としては、MLFが定める規定の他、 J-PARCおよび原科研の定める規定も対象となります。
2.2 MLF内で適用されている規格としては、以下のようなものがあります。
  1. 公共建築工事標準仕様書(電気設備工事設備編)
  2. 日本産業規格(JIS)
  3. 電気規格調査会規格(JEC)
  4. 日本電機工業会規格(JEM)
  5. 日本電線工業会規格(JCS)
  6. 電気設備技術基準
  7. 内線規定(JEAC8001)
  8. その他関係する諸規格・基準

更に以下も関係法令になります。

  • 電気事業法
  • 電気用品安全法
  • 電気工事士法
  • 電気工事業法
2.3 特記すべき規定

定格電流が30Aを超える電気工作物を持ち込む場合、別途、申請手続きが必要となることがあります。採択通知後、装置責任者を通して、電気担当者まで早めに問い合わせてください。

機器安全に関し、質問等がある場合は下記ルートで連絡してください。
 課題採択前:J-PARCユーザーズオフィス j-uo@ml.j-parc.jp
 課題採択後:装置担当者~機器安全チーム